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対人支援者向け講座・トレーニング

Lectica, Inc.の長期プログラムに参加して

現在、Lectica, Inc.の約1年間に及ぶ発達理論に関する長期プログラムを受講している。
このプログラムはLectica, Inc.の関係者がHarvard Graduate School of Educationの授業として提供していたものを一般向けに公開しているものだが、いわゆる「発達理論」といわれるものに関してその歴史的な発展を概観する非常に濃密なものとなっている。
参加者は、総じて非常にレベルが高く、半数程が博士号等の資格をもち、大学等の専門機関で教鞭をとる学識経験者であるために、議論も実に興味深い。
繰り返して議論の的となるのが、発達理論の誤用をいかに回避するかという倫理的な問いである。
もう少し具体的に言えば、発達理論が優生学的に用いられるのをいかに回避するかということだ。
一般的には、発達理論は、単純な段階理論として解釈され、それぞれの発達段階に関して「この段階に到達するとこうした社会的に期待される能力が発揮できるようになる」というようなかたちで同時代の中で期待される「能力像」が投影されることになる。
たとえば、いわゆる「Teal」段階に到達すると「あのようなこと」や「このようなこと」ができるようになり、それがその人に社会的な成功をもたらすことになるーーーーという物語がまことしやかに信じられることになるのである。
こうなると、必然的に高い発達段階に到達することを無条件に奨励する優生学的な物語が信奉されることになる。
たとえば「……大学を卒業すれば就職に有利になる」とか、「……資格を獲得すれば年収を上げることができる」というような功利的なものと同じような物語が発達理論に投影され消費されるようになるのである。
これは、少し専門的に言えば、「構造」と「内容」の混同があるがゆえに生じている誤解といえるのだが、これは長いあいだこの領域の勉強を積んできた人でも混乱しやすい高難易度の問題であるといえる。
しかし、こうした誤解について徹底的に検討することを怠ると、発達理論は容易に同時代の価値観に呪縛されたまま人間存在をその機能的な有用性にもとづいて評価する優生学的な理論に堕してしまうことになる。
このことを長年にわたり様々な現場において発達理論の可能性について真剣に探求してきた参加者が真剣に議論する対話空間に参加できることは実に深い幸福感をあたえてくれる。
こうした誤用は日本でひろく蔓延しているが、それは国内だけの問題ではなく、欧米でも深刻な問題として存在している。
その本質には、人間の価値というものを、その人が経済活動の中で生み出すことができる経済価値に還元する現代の倒錯した世界観があるのは明らかだろう。
「資格」や「学歴」と同じように、「発達」という概念が経済的な恩恵をもたらすものとして歪曲されて理解されているのである。
そこには、たとえば、発達するがゆえにできなくなることがあるということに対する認識も、また、発達するがゆえに背負うことになる重荷があることに対する認識存在しない。
そして、高度な発達段階が却って機能性や生産性を損なうことになる場合があるということに対する認識も欠如しているのである。
いうまでもなく、Lectica, Inc.だけでなく、この領域の優れた研究者達は、発達という概念を研究しながらも、それを人間存在に関する理解を深めるための無数に存在する要素の中のひとつに過ぎないことを明確に認識している。
そうした認識があるがゆえに、その概念に過剰な投影をするのを避けることができるのである。
こうした議論に参加していると、みずからの専門性を相対化することは専門家の倫理的責任であることをあらためて訓えられる気がする。

​発達志向型コーチング トレーニング・プログラム 説明会
https://peatix.com/event/3780823?fbclid=IwAR1hEY0ts9LWsCqVzDcjtoUPvxFRsSXsex5EE0bNsrvQ2RJsoKJjZ-w0skk

来年、念願叶い、国際コーチング連盟の認定を得て、対人支援者を対象とした発達理論の専門的プログラムを日本で開催する運びとなった。
そして、このプログラムを奥野 雄貴さんと松下 琴乃さんという経験豊かなコーチと組んで開催できるのは非常に幸福なことである。
プログラムでは、参加者の方々に実際にLectica, Inc.の発達段階測定を受けていただき、その測定結果を踏まえて自身の成長や発達に関する探求や内省や実践にとりくんでいただくことになる。
発達理論を理解するためには、先ずは発達段階測定を受けて自己について深く理解することが必須となるが、ここではまずその基本を押さえて、人間の成長や発達を支援するための理論や方法を習得していくことになる。
日本でもこうした企画ははじめてものとなるが、そうした画期的なプログラムに相応しい内容のトレイニングを提供したいと思う。

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